■2011年11月16日の「今日のことば」■
前日のことばを見る 次のことばを見る
「今日のことば」
花の種が春を前にしていた。
冬の間、土の中でたっぷりと水を吸い、暖かくなってきたため、 いまにも土へ芽を出そうとしていた。 一粒の種が、 「さあ、待ちに待った春がやってきたわ。 私これから地上にでるわ。 それにはまず、根を思い切り深く張るわ。 根本をしっかりしておかなければ、水分もとれないし、 地上の茎を支えられないし、大きくなって、大きな花も 咲かせることができないわ。 地上は春の太陽をサンサンと浴びているでしょうよ。 ああ、待ち遠しいわ。 春風だって、やさしくしてくれるわ。 精一杯きれいに咲いて、蜂蜜さんに蜜をあげるわ。 人間たちも私たち花の咲くのを楽しみにしているはずよ」 もう一粒の種は、 「あなた、楽天的ね。私はやめておくわ。 根っこを深くおろすのは大変よ。 せっかく伸ばそうとしても、下に石がいっぱいあるでしょ。 どうして、こんなに石だらけにして置くのかしら。 畑の石ころぐらいとってくれたっていいはずよ。 それにさ、地上に芽を出すっていってもさ、 どれくらい芽をだしたら地上へでられるか、わかってるの? もし、途中で力が尽きたら、それで、おしまいだわ。 ああ、恐ろしい。そればかりじゃないでしょ。 地上に芽をだして、小鳥についばまれたらどうするの? 雨がふるかどうか当てにできないし、降ればどしゃぶりかもよ。 苦労して花を咲かせても、誰も見てくれないかもしれないし。 近所の悪ガキどもに、踏みつけられたらおわりよ。 私、やめとくわ。 あなたがうまくいってからにするわ」 かくして、一粒の種は大きくきれいな花を咲かせて、 蜜蜂にも人々にも喜ばれたが、もう一粒の種は、 発芽のタイミングを誤って、土の中でむれて腐って、 日の目をみることはなかった。
|
|