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「今日のことば」
花の種が春を前にしていた。
冬の間、土の中でたっぷりと水を吸い、暖かくなってきたため、
いまにも土へ芽を出そうとしていた。
一粒の種が、
「さあ、待ちに待った春がやってきたわ。
私これから地上にでるわ。
それにはまず、根を思い切り深く張るわ。
根本をしっかりしておかなければ、水分もとれないし、
地上の茎を支えられないし、大きくなって、大きな花も
咲かせることができないわ。
地上は春の太陽をサンサンと浴びているでしょうよ。
ああ、待ち遠しいわ。
春風だって、やさしくしてくれるわ。
精一杯きれいに咲いて、蜂蜜さんに蜜をあげるわ。
人間たちも私たち花の咲くのを楽しみにしているはずよ」
もう一粒の種は、
「あなた、楽天的ね。私はやめておくわ。
根っこを深くおろすのは大変よ。
せっかく伸ばそうとしても、下に石がいっぱいあるでしょ。
どうして、こんなに石だらけにして置くのかしら。
畑の石ころぐらいとってくれたっていいはずよ。
それにさ、地上に芽を出すっていってもさ、
どれくらい芽をだしたら地上へでられるか、わかってるの?
もし、途中で力が尽きたら、それで、おしまいだわ。
ああ、恐ろしい。そればかりじゃないでしょ。
地上に芽をだして、小鳥についばまれたらどうするの?
雨がふるかどうか当てにできないし、降ればどしゃぶりかもよ。
苦労して花を咲かせても、誰も見てくれないかもしれないし。
近所の悪ガキどもに、踏みつけられたらおわりよ。
私、やめとくわ。
あなたがうまくいってからにするわ」
かくして、一粒の種は大きくきれいな花を咲かせて、
蜜蜂にも人々にも喜ばれたが、もう一粒の種は、
発芽のタイミングを誤って、土の中でむれて腐って、
日の目をみることはなかった。
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