■2013年08月07日の「今日のことば」■
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「今日のことば」
息子が見舞うとき、彼女は言った。
「また、来てくれたんだね。無理はしなくていいよ」 「いや、そんな訳にいかないよ。母さんに僕も会いたいしさ」 「大丈夫、雅彦、私はね」 「うん?」 「幸せ、……幸せ」 「いやあ、母は幸せだって、そう言うんですよ」 「そうなんです。私たちにも言ってくださるんですよ。 そして、スタッフに気遣いをしてくださったりすることも あるんです、今忙しくない?大丈夫?って」 「幸せ」が口癖だった老婦人。 単なる口癖は、いつしか皆に伝播し、 彼女の周囲をよい方向へ導くことになった。 スタッフは疲労が消え、いつも以上に熱心に医療、 看護に当たれたし、家族には喪失するという悲しみを和らげ、 また彼女に何かしてあげたい、そのような愛を育てた。(略) もし彼女の口癖が、幸せから一本棒を引いただけの、 「辛い、……辛い」だったら、どうだったろうか。 死ぬのが即苦痛であるのならば、 彼女は「辛い」という言葉を連呼したかもしれない。 しかし、彼女が常に皆にもたらしたのは、 「辛い」の対極の、「幸せ」であった。 それは周囲を変え、そして人生を変えるのかもしれない。
まゆの感想
この話は、胃がんの末期で、ホスピス病棟に入院してきた
80代の女性岳山さんの口癖の話です。 入院してきたときから、ほとんど寝たきりで同然で、 一日のほとんどを臥床(がしょう)して過ごしていたそうです。 そんなとき、急に起こさないように、そっと 「具合はいかがですか?」と声をかけると、 うっすらと目をあけて、 「大丈夫です、なんともないです」と答え、さらに 「それはよかったです。他に辛いことや心配なことは?」 と聞くと、小さいけれどしっかりした声で、 いつも、こう答えたそうです。 「幸せ、……幸せ」 そして、目を細めて笑ったそうです。 息子さんが来たときも、同じようだったということです。 おそらく…いろいろな思いを突っ切って、 岳山さんの心はとても穏やかだったと思います。 そして、心から「幸せ」と思っていたように感じます。 今のこうして元気なうちから、 「幸せ、幸せ」が口癖でありたいと思いました。 |
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