■2017年08月04日の「今日のことば」■
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「今日のことば」
「先生、どうも長い間お世話になりました。 私は、もう死んでいくような気がします。 母には会えないと思います」 彼女はしばらく目をつむっていましたが、やがて再び目を開け 「先生、母には心配をかけ続けで、申し訳なく思っています。 先生からよろく伝えてください」 と言って、私に向かって合掌しました。 脈がふれなくなりました。 臨終のときが迫ったのです。 私は彼女の耳元に口を寄せて大きな声で言いました。 「しっかりしなさい。死ぬなんてことはない。 もうすぐお母さんがみえるから」 彼女は茶褐色の胆汁を吐き2,3回大きく息をして絶命しました。 私は、死亡診断書を書きながら、「医者の使命とは何か」 と繰り返し自問していました。 患者が死を感じて言葉を残そうとするときには、なぜ 「安心して成仏しなさい」と言えなかったのか。 「お母さんにはあなたの気持ちをちゃんと伝えてあげますよ」 となぜ言えなかったのか。 あたふたと最後の効力のない治療を施そうとするより、 なぜもっと彼女の手を握っていてあげなかったのか… そのときの疑問が、半世紀を経て独立型のホスピスや 聖路加病院に緩和ケア病棟を作ることに結びついたのです。
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