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「今日のことば」
「先生、どうも長い間お世話になりました。
私は、もう死んでいくような気がします。
母には会えないと思います」
彼女はしばらく目をつむっていましたが、やがて再び目を開け
「先生、母には心配をかけ続けで、申し訳なく思っています。
先生からよろく伝えてください」
と言って、私に向かって合掌しました。
脈がふれなくなりました。
臨終のときが迫ったのです。
私は彼女の耳元に口を寄せて大きな声で言いました。
「しっかりしなさい。死ぬなんてことはない。
もうすぐお母さんがみえるから」
彼女は茶褐色の胆汁を吐き2,3回大きく息をして絶命しました。
私は、死亡診断書を書きながら、「医者の使命とは何か」
と繰り返し自問していました。
患者が死を感じて言葉を残そうとするときには、なぜ
「安心して成仏しなさい」と言えなかったのか。
「お母さんにはあなたの気持ちをちゃんと伝えてあげますよ」
となぜ言えなかったのか。
あたふたと最後の効力のない治療を施そうとするより、
なぜもっと彼女の手を握っていてあげなかったのか…
そのときの疑問が、半世紀を経て独立型のホスピスや
聖路加病院に緩和ケア病棟を作ることに結びついたのです。
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