■2017年08月04日の「今日のことば」■
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「今日のことば」
「先生、どうも長い間お世話になりました。 私は、もう死んでいくような気がします。 母には会えないと思います」 彼女はしばらく目をつむっていましたが、やがて再び目を開け 「先生、母には心配をかけ続けで、申し訳なく思っています。 先生からよろく伝えてください」 と言って、私に向かって合掌しました。 脈がふれなくなりました。 臨終のときが迫ったのです。 私は彼女の耳元に口を寄せて大きな声で言いました。 「しっかりしなさい。死ぬなんてことはない。 もうすぐお母さんがみえるから」 彼女は茶褐色の胆汁を吐き2,3回大きく息をして絶命しました。 私は、死亡診断書を書きながら、「医者の使命とは何か」 と繰り返し自問していました。 患者が死を感じて言葉を残そうとするときには、なぜ 「安心して成仏しなさい」と言えなかったのか。 「お母さんにはあなたの気持ちをちゃんと伝えてあげますよ」 となぜ言えなかったのか。 あたふたと最後の効力のない治療を施そうとするより、 なぜもっと彼女の手を握っていてあげなかったのか… そのときの疑問が、半世紀を経て独立型のホスピスや 聖路加病院に緩和ケア病棟を作ることに結びついたのです。
まゆの感想
先日105歳で、お亡くなりになった日野原先生の、
使命感に目覚めた原点の話です。 上記の話の女性患者は、16歳の貧しい少女で、 結核性腹膜炎で入院していたそうです。 滋賀の紡績工場の女工で働いていて、母親と二人きりの生活、 その母親も働いていて、いつも彼女に付き添ってあげることが できないという事情があったそうです。 また、今ならストレプトマイシンで簡単に治りますが、 当時は、そのいう薬もなく、彼女は日々衰弱していき、 個室の重症室に移され、そのときのことだそうです。 日野原先生の命に対する思いは、 出会った多くの患者たちとの触れあい、出来事、後悔、 そして反省などから、わいてきたものだということです。 またその後、ご本人のハイジャック事件などもあり、 ますます使命感を強固にしていったようです。 生きていると、辛い、苦しい、悲しい、 後悔することなどいろいろな出来事がありますよね。 その出来事をどうとらえるか、 どう自分の中で昇華するか、力にしていくか… 世の中の役に立つ方に向けていきたいなと思いました。 |
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