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「今日のことば」
ある評論家の仕事を手伝っていたことがあります。
学歴も評論家として独立するまでの
経歴もまばゆいばかり。
そのことは広く知られているのに、それでも
彼は出会う人ごとに自慢をしないではいられない。
それが理解できませんでした。
自慢話はさすがにストレートにではなく、
それとなく遠回しで、こんな具合です。
「本郷界隈には詳しいんですよ。
大学があの近くだったので」とか、
「政治家の××とは親しいんですよ。
彼とは駒場で寮がいっしょでしてね」
家族自慢も相当なもので、ご子息が通う
大学はいうまでもなく、奥さんの実家など、
なんでもかんでも自慢のタネ。
文句なしに優秀な方だったのですが、
あまり好印象はもてませんでした。
ところがあるとき、彼の内心は、
不安でいっぱいなのだと気づいたのです。
彼の出生はけっして恵まれたものではなく
そこに触れられることは、彼にとって
屈辱のようでした。
自慢話は、そのあたりの話題を避けたい
一心からだったようです。
自慢話の多い人は往々にしてこんなもの。
みなが自分を評価し、ちやほやして
くれなければ不安でたまらない。
裏を返せば、本当は自分に不安を感じていて
自慢話はそれを隠すヨロイなのです。
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