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「今日のことば」
相手を思う気持ちがあれば、あなたの言葉は美しい。
藤原審爾(しんじ)氏のエッセイ集「一人はうまからず」に
収められていた話を紹介させてください。
ある日、桜上水のほとりに一人の若い女性がたたずんで、
ぼんやりと流れを見下ろしていました。
自動車修理工場で働く若者二人がその姿を見て、
身投げでもするんじゃないかと心配して声をかけた。
二人の勘は当っていて、女性は親に結婚を反対されて
家出してきたところでした。
若者は自分たちの働く工場の経営者にかけあい、
女性も同じ工場で働けるようにします。
そうして一年の月日が流れるうちに、女性の両親も
結婚を許してくれ、その披露宴に二人の若者は招待されます。
決して裕福ではない若者たちは、華やかな会場の中で
二人だけ礼服ではなく背広姿でした。
隅に座っていた彼らは、花嫁のたっての希望で
突然あいさつに指名されます。
二人はあわててゆずりあいますが、一人が立ち上がって、
全身でぶつかっていく感じの声で叫ぶように言うのです。
「加世ちゃん、よかったなぁ」
さらに汗びっしょりで、もう一声、叫びました。
「遊びに来てくれよな、忘れずにな」
ものすごい拍手がわきあがりました。
新婦は泣き出し、新郎がハンカチを渡します。
ほかのどんな立派なあいさつよりも、
このたった二つの言葉が会場の人たちを感動させ、
幸せな気持ちにした、そういう話です。
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